保元物語 平治物語 承久記 (新 日本古典文学大系)

題名の通り『保元物語』『平治物語』『承久記』を一冊に集めたものなので、その内容については今更言及するまでもないであろう。恐らく皆様が一番気になるのは本書の形態であろうが、現代語完訳が付いている訳ではないので、古典を簡単に読みこなすだけの力量がないとかなり苦労してしまうのは事実だ。非常に丁寧な注釈が付いているので誰でも読めるとは思うが、恥ずかしながら私自身は読み終えるのに相当な時間を要してしまった。依って、この物語の内容を簡単に知りたいという方にはお勧めしないし、現代語完訳の形で出版されているものを選んだ方が賢いと思う。但し、その一方で本書のような作品は避けるべきものかと言えば答えは否である。やはり現代文では味わえない古文の格調高い表現、独特の雰囲気等は捨て難いものがあるので、苦労してでも読むだけの価値は大いにあると思う。寧ろ、現代文を別の著書で補足しながらでも一度読んでみる事をお勧めしたい。何故なら、内容の面白さは去る事ながら古典文学の魅力というものを充分に教えてくれるように感じられるからである。保元の乱、平治の乱、そして承久の乱…この三つの大乱を劇的に描き、歴史の荒波に翻弄される人々を描き切っているばかりか、人生の儚さや運命の定めすら感じさせられる名著である。また、登場する人物の詳細な注釈、参考資料、系図、平安京の復元図や甲冑の絵図、加えて解説が巻末に纏められているので非常に有用でもある。尚、改めて言っておくが、勿論この物語に描かれているのは事実ではない。この作品に限った事ではないが、物語は後世の人に依って創作された物なので「あくまでも作り物」として認識するべきではある。依って、事実を誤解しない為にもこれらの乱に関する研究書等を併せて読む事をお勧めするし、また、そうする事に依って一層この物語の魅力が増大する事は間違いない。この物語を読む前に既に史実を知っていれば改めて物語の奥深い世界を堪能出来ると思うし、逆に物語を先に読んだ上で史実を知れば、現実に目を覚まして大切な知識を得る事が出来るであろう。改めて、読破するのには苦労した。だが、それだけの価値はあり、今後も興味のある古典文学は是非とも原文に挑戦してみようという気持を新たにした次第である。