グレン・グールド (河出文庫)

吉田の最も知られた業績？である、グールド評を集めたもの。手軽に文庫で手に入るようになったのである。是非多くの人に読んでほしい。そして、グールドを聞く喜びを知ってほしい。日本で、ほかの誰もきちんと評価できなかったグールドを、吉田一人が絶賛し、その後、多くの人がグールドの演奏を楽しむようになると、やがて、高い評価は共通認識に変わっていった。因みに、グールドの最高傑作「ゴールドベルク変奏曲」は数種類の録音があるが、私が最も好きなのはザルツブルクでの’５７年のライブ！である。晩年の映像（DVD）も良いですが。今にして思えば、結局、グールドのような演奏家は、ほかに出てこなかった。多分今後も出ないのだろう。どのくらい、変わった、というか、奇矯な演奏を録音し発売したかは、聞いた人なら皆知っている。それを、通常のまじめな演奏と同じようにまじめに取り上げて、きちんと評価することがどれほど難しかったか。この本は、その記録だと思う。そして、肝心なのは、グールドの演奏には他の誰にもない魅力が満ち満ちているということを、生き生きと我々に伝えてくれたことなのだ。聞けば、だれにでもわかると思うのだけれど、そうでもないのだろうか。蛇足であるが、本書、５５ｐでグールドの演奏するフランス組曲に触れているのだが、「第三番ハ短調が」と「第三番のロ短調も」という記述が出てくる。ハ短調は二番のはずだがこんな、一度読めば誰でも気づくことを編集者はチェックしていないのだろうか。念のため、「吉田秀和全集」と「レコードと演奏」の両方の同じタイトルの記述を確かめたが、両方とも、「三番ハ短調が」となっていた。長年誰も気づかずにほっておいたのだろうか。やれやれ。